εἰρωνεία

皆でキラキラインスタグラマーになろう。カフェに行ったら必ず誰かの手や腕を写りこませ匂わせよう。匂わせというのは嗅いだ方の負けである。控えめなアクセサリーを纏って綺麗に整えた爪をした女か、ロレックス等の分かりやすい高級時計かアップルウォッチを着けた男にしようか。当然だがこの世界に性別は二種類しかない。男か女かだ。何もない日に高層階のホテルのレストランに行きシャンパングラスを写し込ませた夜景を撮ろう。銀座に行ったらハイブランド路面店の前で写真を撮ろう。サブカルチャーオタク文化を捨てよう。着飾り、贅を尽くして、それが絶対的な幸福だとフォロワーに信じ込ませよう。タグは何も考えず付けまけくること。サロンに行ったら必ず自撮りをしよう。鏡越しで撮りコーデを見せよう。スマホケースは映え重視。ハイブランドのバッグ。一度載せた服はすぐ売ろう。ホテルのアフタヌーンティーに行き、同行者が実質誰であれ、親しい友人だと強調しよう。大人数で集まりマンションで宅飲みをしよう。やはり高層階に限る。星や月を見上げるより、労働している人間で作られている夜景を見下ろす事こそが至高。シャンパングラスは沢山用意しておけ。味などどうでも良い。安いチューハイは飲むな。新宿や渋谷より、六本木や西麻布に行け。高円寺や下北沢は論外だ。池袋は埼玉県である。海に行くな。山に登るな。野良猫を愛でるな。公園に行くな。都会の喧騒こそが本質だ。定期的に「小さい幸せ(絵文字)」と、恋人らしき人間から貰ったと思われそうな物品を載せよう。キラキラするフィルターをかけて撮れ。紙袋は捨てずに背景に置いて何処の品かアピールしよう。花は撮ったら捨てろ。ケーキは一口食べたら捨てろ。手紙は読まずに捨てろ。男も女も猫を飼って、自分と一緒に撮って撮って撮りまくれ。決して寄付はするな。ペットショップで買った血統書付きの猫を保護猫と言え。美術館や映画館には興味が無くても定期的に行きアピールしろ。気分じゃなくても珈琲はスターバックスのカフェラテを片手に持て。路傍に咲く花に何も感じなくても撮れ。自然を愛でるフリをしろ。本を持ち歩いている事にしろ。自己啓発本に人生を左右されたと言え。小説に感動した事にしろ。興味がなくても流行りの曲を聞いて泣いたと言え。メイクやファッションは流行を少し取り入れた万人ウケのみだ。自分ウケなど以ての外である。あらゆる事に鈍くなれ。感性を殺せ。徹底的にだ。良いな。レコードを捨てろ。楽器を捨てろ。絵具を捨てろ。フィルムカメラを捨てろ。二次元嫁を捨てろ。純文学を読むな。詩集を読むな。紙煙草を吸うな。喫茶店に行くな。ロックを聴くな。古着屋に行くな。勉強をするな。何事にも凝るな。お笑いなどくだらない。就職に意味をなさなくても長いカタカナの資格は取れるだけ取っておけ。肩書きは大事だ。Twitterアカウントを全て消し、二度と見るな。インターネット掲示板は見ていても見ていないフリをしろ。人間関係は利用が出来るものだけ残せ。好き嫌いは感情論である。捨てろ。友達や恋人は利用するものだ。著名人に媚びろ。権力者を煽てろ。人間性など関係ない。子供から学ぶ事など一つもない。言葉は紡ぐな。文章を書くな。世界を知るな。愛を育む事をやめろ。その上でラブアンドピースだけ言え。一人の時間など無駄である。拾い画を乱用しろ。著作権や肖像権なんて無視しろ。リスペクトなど要らない。弱者は踏みにじれ。利用出来るものは利用しろ。アートだから芸術には金を払わなくていい。友人だから技術や時間や知識に金を払わなくていい。当然なのだから感謝など不要。罪の意識は持つな。祈るな。願うな。自分軸などどうでもいい。自我を殺せ。誰にも見せたくない幸福などなく、自分の中にだけ留めて置きたい宝物などない。全てをインターネットに晒しまくれ。作り笑顔を練習し盛れる角度を覚え画像編集技術を磨け。金が無いなら借金をしろ。親に集れ。グレーゾーンで稼げ。脱.税しろ。ただしそれは絶対に隠せ。虚飾しろ。見栄を張る事に集中しろ。大多数が憧れるものだけ研究しろ。この世界では結果が全てだ。過程などどうでも良い。結果とは即ち数字である。数字は金になる。フォロワーから骨の髄まで搾り取れ。彼等は馬鹿だ。若しくは馬鹿でいたいのだ。我々とは違う。見下せ。

そうして共に、紛い物の煌めきの、その儚さを知ろうか。